季節に合わせた花や緑の楽しみ方を紹介する、日比谷花壇の連載コラム「季節を彩る花物語」。
お家の中で花や緑を気軽に楽しむヒントを紹介したり、時には公園や路地裏に咲く花々を紹介してみたり、花や緑にまつわる歴史的な出来事から、海外での花の楽しみ方・贈り方まで、季節を感じ楽しめる花と緑の情報満載でお届けしていきます。
*このコラムは、中日新聞・東京新聞の隔週月曜夕刊で2009年1月から連載しています。
第75回 芍薬 〜古くから愛される花〜
店頭に並ぶ芍薬。ヒビヤカダン スタイル そごう千葉店で
「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」と芍薬、牡丹、百合、どれも姿・香りが優れていることから、古くから美人をあらわす言葉として用いられています。
また、武士のたしなみとして始まった花文化で「肥後六花」というものがあります。肥後菊・肥後椿・肥後山茶花・肥後花菖蒲・肥後朝顔・肥後芍薬の6つを総称し、こう呼びます。肥後細川家藩主の細川重賢(しげかた)公の時代に花を愛でる文化が生まれたそうです。
肥後六花の共通の特徴としては、おしべが見ごとなこと、花形が大輪で一重一文字咲きであること、花色の純粋なことの3点があります。 昔、芍薬は一重咲きや三重の蓮華咲きとされる大輪で、おしべが盛り上がり大きいものほど優秀とされていました。一重咲きの美を見出す日本人の心の原点である美意識を感じます。
現在、流通されている芍薬は‘洋芍薬’が中心です。品種改良が進み華やかでボリュームのある八重咲きの花形が多く、遠くから見るとまるでバラのようです。また、おしべの量が少なくなることで日持ちも良くなっています。
例年、4月から6月上旬まで流通しますが、5月中旬に芍薬は出荷のピークを迎えます。フラワーショップでも今の時期しかほとんど出会うことができない花です。そのため、芍薬が出てくる時期を待ちわびていたと言わんばかりに、フラワーショップではたくさんの方々が自分用に芍薬を購入されます。
芍薬は1株から出荷できる期間が1週間から10日と非常に短いため、楽しめる時期が限られます。1年中出回る花と違い、期間限定なレア感がより人々を魅了するのでしょうか。
芍薬を長く楽しんでいただくためには、まず買う時に固すぎる蕾よりもちょっと咲きかけた蕾を選んでいただく方が最後まで咲ききってくれます。蕾には蜜が付きやすく固まると花が開きにくくなるのでコットンで拭いたり、霧吹きを使って蜜を取ってあげると咲きやすくなります。芍薬は、花だけではなく茎葉もとてもきれいです。品質の良い芍薬は茎も太く、葉もとてもみずみずしいです。葉が大きいため蒸散作用が激しいので、適度に茎葉をかいて飾ることでより一、二週間は楽しめます。古くから日本人が愛でた芍薬を今年もぜひお楽しみください。
日比谷花壇 マーチャンダイジングディレクター 小野瀬 景
コラムニスト紹介
店頭販売での長年の経験を活かし、日比谷花壇の首都圏店舗の生花マーチャンダイジングディレクターとして、お客様が求める、またお客様に新たな発見や感動を提供する商品展開、お客様と生産者を結ぶフェア展開を手掛ける。