季節に合わせた花や緑の楽しみ方を紹介する、日比谷花壇の連載コラム「季節を彩る花物語」。
お家の中で花や緑を気軽に楽しむヒントを紹介したり、時には公園や路地裏に咲く花々を紹介してみたり、花や緑にまつわる歴史的な出来事から、海外での花の楽しみ方・贈り方まで、季節を感じ楽しめる花と緑の情報満載でお届けしていきます。
*このコラムは、中日新聞・東京新聞の隔週月曜夕刊で2009年1月から連載しています。
第86回 バラの香り 〜はかなさに心ひかれる〜
香り高い人気のバラ「イブピアッチェ」
バラは香ることで、よりいっそう美しさを増し、人の心にはたらきかけてリラックス効果を生みます。一口に「バラの香り」といっても、その香りは500以上もの芳香成分からなっているため、感じる人によってさまざまな印象を与えます。
無数にある香りはミルラ、ティ、スパイシー、フルーティ、ブルー、ダマスクモダン、ダマスククラシックと、7種類に分類されています。
中でも、最も愛されている香りは、みずみずしくラグジュアリーで甘い香りのダマスク系のもの。古代エジプトの絶世の美女「クレオパトラ」も好んだといわれていて、香水をはじめ、化粧品、石鹸、食品や飲料など、幅広く芳香性の商品に用いられています。バラの香りはなぜ愛されるのでしょうか。アロマテラピーの世界では、心身の緊張を和らげたり、多幸感を与えたり、贅沢な気分にさせる効果があるとされています。
日常生活をしているとバラの香りと出会う機会が多くあります。何気なく認識しているこの香りですが、本来とても繊細なもので、時間・気温・湿度等で、微妙に変化しています。
芳香成分は植物の表面から蒸散される水分に含まれるため、気温が上昇する日の出後3〜4時間、気温は20度くらいがいちばん強く香るといわれています。また、初夏と晩夏、晴れと雨など季節や天候によって種類までかわることがあります。
ガーデンローズは、たいへん香りの良い品種が多いのですが、切り花用のバラの品種は、花形・花色といった見た目を重視して育種が進められてできた品種も多く、そのため香りの薄い品種も多くあります。また人が香りを感じるために、嗅覚を使っていますが、嗅覚は非常に個人的な感覚とされており、一本のバラを同じタイミングで香ってみても、香る人と、香らない人がいます。
このように周囲の影響を受けて変化していく儚さが、バラの香りが多くの人を魅了する要因の一つかもしれません。嗅覚を研ぎ澄まし、どのような香りがするのか、さまざまなバラの香りを楽しんでいてはいかがでしょうか。
日比谷花壇 マーチャンダイジングディレクター 長谷川 藍生
コラムニスト紹介
店頭での経験を活かし、日比谷花壇の首都圏店舗の生花マーチャンダイジングを担当。お客様が求める、またお客様に新たな発見や感動を提供する商品展開を手掛ける。