連載コラム「季節を彩る花物語」

季節に合わせた花や緑の楽しみ方を紹介する、日比谷花壇の連載コラム「季節を彩る花物語」。
お家の中で花や緑を気軽に楽しむヒントを紹介したり、時には公園や路地裏に咲く花々を紹介してみたり、花や緑にまつわる歴史的な出来事から、海外での花の楽しみ方・贈り方まで、季節を感じ楽しめる花と緑の情報満載でお届けしていきます。
*このコラムは、中日新聞・東京新聞の隔週月曜夕刊で2009年1月から連載しています。

バックナンバー

 第40回  秋の七草  〜野の花の風情を感じて〜

ヒビヤカダン 日比谷公園店にも秋の花々が並ぶ

ヒビヤカダン 日比谷公園店にも秋の花々が並ぶ

「秋の野に 咲きたる花を 指折り(おゆびをり) かき数ふれば 七種(ななくさ)の花」
「萩の花 尾花 葛花 撫子の花 女郎花(をみなへし)また藤袴 朝貌(あさがお)の花」
「万葉集」で山上憶良が詠んだ「秋の七草」。食することで無病息災を願う「春の七草」と違い、「秋の七草」は眺めて楽しむ季節の花をさします。

野の花が咲き乱れる野原を「花野(はなの)」といい、花野を散策して短歌や俳句を詠むことが古来より行われていました。「秋の七草(ハギ・ススキ・クズ・ナデシコ・オミナエシ・フジバカマ・キキョウ)」も、千年以上も前に秋の花野を散策していた山上憶良が詠んだ事に始まり、今では秋を代表する七種の花として知られるようになりました。「秋の七草」は、実りの秋から厳しい冬に向かおうとする四季のうつろいの哀しさ、咲く花の儚さ、といった日本人ならではの細やかな心情を詠ったものだと感じます。この心は、山上憶良が詠った時代も現代も、ほとんど変わらないことでしょう。

秋の風情をかもし出す花には、他にも吾亦紅(ワレモコウ)、ホトトギス、キク、リンドウ、コスモス等。これらの花を想像するだけで、土の匂いの帯びたひんやりした風を連想します。

花屋の店先ではこの時期に赴きあるこれらの花が手に入ります。店先で気に入った花を組み合わせて、 秋の味覚の果物や綺麗に紅葉したモミジの枝などと一緒に飾ると、憩いの部屋がぐっと秋の雰囲気に包まれることでしょう。

昨今ではナデシコやキキョウ、オミナエシやフジバカマなどは庭先で美しく手入れされた花をたまに見かけますが、ススキやハギやクズの花などは、山里まで足を伸ばさないとなかなかお目にかかることが難しくなりました。千年以上も前に山上憶良も眺めていた日本の秋の原風景…。秋の花野がこれからも続いていくことを望んでいます。

日比谷公園店WEBサイトはこちらから


 コラムニスト紹介

渡辺 潤
日比谷花壇  日比谷公園店  フラワーコンシェルジュ
約20年にわたり、日比谷花壇の店舗でフラワーコーディネーターとして活躍。 様々な花や緑の魅力を熟知し、お客様が求める商品を案内するとともに、花に託して贈るお客様の“気持ち”や“ご意向”をくみ取り、最適な提案を行う、花のコンシェルジュ。 花がもたらす喜びや感動をお客様と共有し、花を贈る人、贈られる人に期待以上の満足を得ていただきたいと、「ヒビヤカダン 日比谷公園店」でお客様をお迎えしている。