連載コラム「季節を彩る花物語」

季節に合わせた花や緑の楽しみ方を紹介する、日比谷花壇の連載コラム「季節を彩る花物語」。
お家の中で花や緑を気軽に楽しむヒントを紹介したり、時には公園や路地裏に咲く花々を紹介してみたり、花や緑にまつわる歴史的な出来事から、海外での花の楽しみ方・贈り方まで、季節を感じ楽しめる花と緑の情報満載でお届けしていきます。
*このコラムは、中日新聞・東京新聞の隔週月曜夕刊で2009年1月から連載しています。

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 第49回  古来の葬儀  〜榊などの常緑樹を利用〜

玉串(榊)をささげて故人を偲ぶ、神道の葬儀

玉串(榊)をささげて故人を偲ぶ、神道の葬儀

春を迎えて野山には花が咲き乱れるようになりました。もちろん、街の中も花で溢れかえっています。ピンク、黄色、赤などの色鮮やかな花々は行く先々で私たちの目を楽しませてくれます。葬儀のシーンでも花々はその色と香りで参列者の気持ちを和らげてくれます。ただ、今でこそ葬儀に色鮮やかな花々を飾るのは当たり前のようになっていますが、従来の日本の葬儀の中では積極的に色花を飾る習慣はなかったようです。

では、色花の代わりに何を飾っていたのかといいますと、「榊(さかき)」や「樒(しきみ)」を飾っていました。

榊は主に神道の葬儀で使用され、現在でも神事に不可欠な植物として扱われていますが、その存在はかなり古い時代から認識されていたようです。例えば、神代の時代を綴ったとされる「古事記」では有名な天の岩戸隠れの一説の中に天の香久山よりとって来た大榊を捧げるくだりがあります。また「古事記」より約百年後に編纂された「万葉集」においても神に捧げる歌として榊を使った歌が一首、大伴坂上郎女により詠まれています。現代から遡る事千年以上前より榊は神の木として神事に利用されていたのです。

一方、樒はと申しますと宗派の違いはありますが、主に仏教の葬儀の中で利用されることが多いようです。一説によると、天平時代にかの鑑真和上が日本に持ち込んだとも、また唐招提寺に樒を供えたとも言われています。

榊も樒も共通していることは、どちらの植物も常緑樹であるということです。榊は一年を通じて緑の葉が繁っていることから栄える木が転じて榊になったとも言われています。また樒は四季を通じて手に入れやすいので、仏教の特定の宗派では季節を表す花(時花)の代わりとして利用されています。

キリスト教でも常緑の植物として「柊」が重要な植物とされています。柊の場合は再生の象徴という意味があるようです。榊、樒、柊のいずれにしても厳しい冬に青々と繁っている姿は生命の力強さを感じさせてくれるものですね。


 コラムニスト紹介

鈴木健久
日比谷花壇 フューネラルプロデューサー
「人と人とのつながりや想いを形にしたい」と日比谷花壇の葬儀サービス「フラワリーフューネラル」に携わる。店頭でのフラワーコーディネートをはじめとして、法人営業や装飾事業など多岐にわたる経験を活かし、葬儀シーンで活躍。今までの葬儀には見られない斬新な祭壇デザインや店舗で培ったお客様へのおもてなしで、日比谷花壇ならではの新たな葬儀を提供している。