連載コラム「季節を彩る花物語」

季節に合わせた花や緑の楽しみ方を紹介する、日比谷花壇の連載コラム「季節を彩る花物語」。
お家の中で花や緑を気軽に楽しむヒントを紹介したり、時には公園や路地裏に咲く花々を紹介してみたり、花や緑にまつわる歴史的な出来事から、海外での花の楽しみ方・贈り方まで、季節を感じ楽しめる花と緑の情報満載でお届けしていきます。
*このコラムは、中日新聞・東京新聞の隔週月曜夕刊で2009年1月から連載しています。

バックナンバー

 第16回  秋の恵み   〜植物たちのつける実〜

たわわに実るピンク色のペッパーベリーを使った、秋を感じさせるアレンジメント’

たわわに実るピンク色のペッパーベリーを使った、秋を感じさせるアレンジメント

まだ夏の暑さが残っていますが、植物たちは着実に夏から秋冬へと準備を始めています。庭先には、ハナミズキやバラの実が赤やオレンジ色に、野ブドウの小さな緑の実が徐々に青や紫色へと色づき始めています。森の中に一歩足を踏み入れれば、サンキライやアケビ、ナナカマドの実が花に代わって、秋の野山を華やかに彩っています。恵みの秋は、私たちに豊穣の喜びをもたらしてくれます。 

植物が美しい実やおいしい果実をつけるのは、もちろん、私たちを楽しませてくれるためではありません。鳥や動物に種を遠くまで運んでもらい、自分の子孫をなるべく多く残すために進化してきたのです。たくさんの植物の中から見つけてもらいやすいように鮮やかな色の実を付け、種を運んでもらうお礼に、おいしい果実を実らせるのだそうです。

秋のアレンジメントにも、実モノは季節感を表す素材として欠かせないものです。ドングリやムラサキシキブ、ウメモドキのように古くから日本にあるもの、ビバーナムティナス、シンフォリカルポス、ヘデラベリーのように外国から入ってきたものと、色、形ともにバリエーション豊かです。その中でも秋から冬にかけて特に人気の高い実モノが「ペッパーベリー」という小さなピンクの実です。
3mmほどの小さな実がブドウのように房に連なっています。「ピンクペッパー」という名前でスパイスとしても出回っているので、お料理に使われているのを見たことがあるかもしれません。その名前と、潰すとコショウのような爽やかな香りがするところから、黒コショウや白コショウと同じ仲間だと思われているようですが、コショウは、コショウ科コショウ属でつる性の植物、ピンクのペッパーベリーはウルシ科サンショウモドキ属の樹木で、全く異なる植物です。花材としては、ドライになって出回ることが多いので、写真のように生花のアレンジメントに使われるだけでなく、リースやオブジェの素材としても使われ、長く楽しめるインテリアとして人気があります。

 植物にとっては、一粒も無駄にはしたくない、自分の子孫を残すための大切な実。部屋に飾る時は、植物たちに感謝しながら、ちょっとだけおすそ分けしてもらい秋の恵みを楽しみましょう。


 コラムニスト紹介

日比谷花壇 本社 シニアデザイナー 西澤真実子
フラワーギフトの制作に長期間携わり、ギフトシーンにおける多くのフラワーデザインを 経験。現在は、ギフト商品の部門で商品デザインのコアを担い、トップデザイナーのひと りに数えられている。シンプルかつ花材の繊細な色合いにこだわったデザインを得意とし、 女性的で透明感のある作風が特長。独特のロマンティックな演出が、多くのファンを魅了 してやまない。また最近では、書籍の表紙デザインやCDジャケットのフラワーデザインを 手掛けるなど、多岐にわたる分野で活動を続けている。